大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1343号 判決

被告人 黒上ツカ 他一名

〔抄 録〕

原判決中被告人今井文子に関する部分を職権によつて按ずるに、右風紀取締条例第二条に所謂不特定の相手方と性交するということは、もとより性交するときにおいて相手方が不特定であるという意味ではなく、不特定の異性のうちから任意に相手方を選定し性交の対価に主眼をおいて相手方の特定性を重視しないで性交するということを意味するのであるから、ここに不特定の相手方を選んだと謂い得るが為にはその事の性質上当然不特定の或一人の次に更に他の不特人を相手とするという行為の反覆継続性の予想せられることを必要とし、従つてこの反覆継続性の認められる場合に始めて不特定人を相手方とするものと解するのを相当とする。

故に売春行為はたとえ数回あつてもそれらの行為が反覆継続の意思をもつて不特定の相手方との間になされたものと認められる以上それらの行為は包括して一罪を構成するものと解すべきである。

しかるに、同被告人に対しては昭和三〇年七月二七日附起訴状によつて、昭和三〇年六月一六日の売春行為が、同年九月二一日附起訴状(何れも略式命令請求書)によつて、同年六月二一日及び、同月二五日の売春行為が夫々別個に起訴されているのであるが、右は反覆継続の意思の下に為したものと認められるので、前段説示に徴し右数回の売春行為も包括して一罪と認めるべきものと解するを相当とする。

ところで一罪の一部について公訴の提起があつた以上その効果はその全部に及ぶべき筋合であるから昭和三〇年七月二七日附起訴によつて、昭和三〇年六月六日の売春行為が起訴されている以上これと包括一罪の関係にある同年六月二一日及び同月二五日の売春行為についても当然公訴提起の効果が生じているので、訴因の追加によつて審判すべきもので、別個の公訴提起は不適法のものである。従つて後の昭和三〇年九月二一日附公訴の提起は所謂二重の起訴であつて、これは刑事訴訟法第三三八条第三号によつて判決により公訴棄却を為すべきものである。しかるに原判決が事ここに出でず、その実体につき判断して無罪の言渡をしたのは不法に公訴を受理した違法を犯したものと謂うべきであるから、原判決中被告人今井文子に関する部分は検察官の論旨について判断を為す迄もなくこの点においてすでに破棄すべきものとする。

(山本謹 渡辺好 石井)

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